【第1章】世の中をより良くしたいから、売上300億円を掲げる

― 2018年に河合さんに取材した時、「売上高100億円をベンチマークすると製造工場に負担がかかり、社員も土日祝日に出勤して疲弊するため、売上目標を引き上げようとは考えていない」と伺いました。ただ、2024年7月には165億円と、当時とは比べものにならないほど事業が成長しています。有楽製菓の最新情報をお聞かせください。

5〜6年前にお話しした時と根幹は変わっておらず、私は元来、売上目標を立てることが好きではありません。売上という分かりやすい定量的目標を設定すると、それを達成すること自体が目的になるからです。そうならないために、お客様が何を求めているかを考えて実行し、結果として数字が付いてくる形を理想としてきました。

しかし、現在(2024年12月)は「将来的には300億円を目指そう」と社内で握り合っています。100億円前後の売上でも、ブラックサンダーというブランドがあれば業界や世の中にそれなりの影響を与えられますが、今よりも発言力を高めて世の中をより良く変えていくには「会社の規模感」が必要だからです。また、高い目標を達成するためにどう工夫していくかを社員みんなで考える姿勢も有楽製菓の文化にしたいんです。

― 現在、有楽製菓が注力していらっしゃることは何でしょうか。

2つあります。1つ目は事業の海外展開です。日本では確実に人口が減っているため、現在はまだチョコレートの消費量には影響していませんが、新たな市場を獲得するには海外に出ていくしかありません。私たちのおいしいお菓子を海外の皆さんにも楽しんでいただきたいとは常に考えています。特に、チョコレート消費量の多い北米でブラックサンダーの認知度を上げて定着させるための戦略を練っています。

2つ目は「スマイルカカオプロジェクト」というサステナブルな活動です。2019年に始動し、2022年9月にブラックサンダーに使用するカカオ原料の全てを児童労働問題に配慮されたものに替え、2024年7月には有楽製菓の全チョコレート商品でも100%を達成しました[1]。ただ、これはほんのワンステップに過ぎず、現在は業界や日本にも広げていく戦略を立てているところです。

「良いことをしている商品がいい」という方は多くいらっしゃいますが、「これは良いことをしている商品で高いです。これは何もしていない商品で安いです。どちらを買いますか?」と目の前に出されたら、多くの方が安い商品を選ぶのではないでしょうか。しかも「お客様が買ってくれるから」という動機がないと、メーカーとしても動きにくい。この現実的な課題をいかにクリアしていくか、いかにお客様に価値を感じてもらえる活動にするかを試行錯誤しています。

― 人や地球環境、社会に優しくて高い商品と、そうではない安い商品が並んでいたら、課題意識を持っている方でないかぎり後者を選ぶかもしれませんよね。

一方、ヨーロッパやアメリカは宗教的な背景から、これらへの意識が日本よりもやや高いように感じます。教会に毎週末行く習慣や「恵まれている人はそうではない人に施しをすることが務めだ」という考えがベースにあり、「環境や労働に配慮されたものを買って世の中に貢献しよう」とアクションする人も見られます。また、ヨーロッパは19世紀後半から20世紀前半にかけてアフリカ諸国を植民地化してあらゆる原料を調達していたため、日本よりも歴史的な繋がりが濃くて自分ごと化しやすいのかもしれません。

加えて、日本は昨今の経済状況から出費を抑えたい気持ちが強い傾向がありますよね。「商品がおしゃれだから」「あのインフルエンサーが使っているから」とカジュアルに取り組んでいただけるように、もう少し心理的ハードルを下げる工夫をしています。

【第2章】ブラックサンダー30周年。30個の楽しい企画が降り注ぐ

― ブラックサンダーは2024年9月で30周年を迎えました。改めまして、おめでとうございます。

ブラックサンダー30周年記念企画「30の楽雷」のキービジュアル
皆さんを楽しませたいという思いから誕生した30周年記念企画「30の楽雷」

ありがとうございます。さまざまな企業とのコラボや新商品の開発のおかげで数字が順調に伸びていますが、全商品の母体となるブラックサンダーをさらに強化しています。創業以来、有楽製菓は「味にこだわり続ける」という経営方針を遵守し、おいしくないものを出すつもりはありません。普段から私自身が全商品の味で最終判断を下し、納得しなければ世の中に出しません。だから、有楽製菓の商品はどれも圧倒的においしく、食感もいいんです。一方、おいしい商品を作れば売れるわけではないため、いかに商品の魅力を皆さんに伝えて手に取っていただくかもマーケティングチームで趣向を凝らしています。

難しいのは、特徴的な味を食べたほうが「おいしかった」と記憶に残りやすいことです。例えば、さまざまな味がバランスよく混ざり合っておいしいイチゴ味のお菓子があったとします。それでも「この前買ったやつ、何味だっけ?」と忘れられることはしばしば起こります。そこで、やや強めにイチゴの印象を残すように設計すると「あの商品、イチゴ味がおいしかったな」と次の購入に繋がります。あえてバランスを崩すと、お客様から愛される商品になるんです。私は試作の段階では消費者になりきって「良い違和感」かどうかを厳しく見極めています。

― ブラックサンダー30周年を記念して「30の楽雷」というキャンペーンを実施していらっしゃいます。

ブラックサンダーはこの節目に「楽しさ」で感謝を伝える、新たな取り組みを発表しました。「おいしさと遊びゴコロ」で皆さんを元気にしてきたブランドらしく、1年間で30個の企画を展開しています(2024年12月取材時点)[2]。

ブラックサンダーのオリジナルセーターを着用する有楽製菓の河合辰信さん
ココロもカラダも暖まる、ブラックサンダーのオリジナルセーター(キャンペーンは終了しています)

【第3章】人気競合とのコラボで、業界全体と売り場を盛り上げる

― 「商品の歴史」や「お客様への感謝」を伝えるだけではなく、ユニークな企画を30件も作った背景をお聞かせください。

ファミリーマートさんが2021年に「ファミマ40周年『40のいいこと!?』」にチャレンジしていらっしゃったのを拝見して「これ、いいな」と。ミスタードーナツさんやチロルチョコさんとのコラボ、また、お笑いコンビのハライチさんとのラジオコンテンツなどを社内で企画しました。

バレンタインや9月6日(ブラックサンダーの日)には毎年大きなイベントを開催していますが、今回の30周年ではどんなコンテンツが皆さんに喜んでいただけるかが分かりませんでした。「とにかく30個作りましょう!」と、さまざまな角度から知恵を絞りました。

ミスタードーナツのハロウィーン商品とブラックサンダーのコラボビジュアル
ミスタードーナツさんとのコラボ。ブラックサンダーをドーナツで表現(販売は終了しています)

― 数々の競合とコラボしていらっしゃるのも素敵です。どのようにお話を持ちかけたのでしょうか。

例えば、チロルチョコさんとはもともと仲良くさせていただいていて、以前にも商品をコラボしたことがありますが、今回の30周年でも快くOKしてくださいました。意外と、競合同士はバチバチしていないんですよ。皆さんは、お菓子を買う時「この会社の商品しか買わない」とは決めず「今日はこれ。明日はあれかな」「これもあれも買いたい」と自由ですよね。お客様に多種多様なお菓子を楽しんでいただき、スーパー・コンビニの棚や市場全体が盛り上がることが大切なんです。

ブラックサンダーとチロルチョコのコラボ商品のパッケージ
チロルチョコさんとのコラボ(販売は終了しています)。筆者は10個食べて本記事を作成

【第4章】売れなかった教訓が道を拓く。「義理チョコ」で市場革命

― ブラックサンダーの30年間では一時的に生産中止に追い込まれたり、内村航平選手がブラックサンダーを好きだと公言したり、さまざまな出来事がありました。河合さんが2010年に入社してから14年間を振り返ってみて、いかがですか。

特に思い出深いのは、マーケティングチームを立ち上げてから試練の連続だったことです。それまでの有楽製菓には「良いものを作れば売れる。けれど、お客様が飽きて売れなくなったら終わり」と、特段のブランド戦略や長期的な販売戦略がありませんでした。しかも、チョコレートメーカーなのに、2月の売上が全く伸びていなかったんです。

私は「ブラックサンダーにはまだポテンシャルがある。バレンタインではどう考えても義理チョコだから、ブラックサンダーのパッケージに『義理』と書いたらどうだろうか」と社内で提案するも「うちの主力商品だから、それはさすがにできない」と却下されました。ところが「ビッグサンダーならパッケージを変えてもいいよ」と言われ、私は「やりましょう。義理って分かるメッセージを載せましょう」と、バレンタイン限定でビッグサンダーに「BIGサンキュー♡」と大きく書いて売り出したこともあります。

しかし、結局、売れませんでした。「ほら、やっぱりブラックサンダーでやらないと。BIGサンキューと言ってもしょうがないから、来年は『義理』と書こうよ」と。そんな矢先に、たまたま飛び込み営業で来社した弘亜社さんにこれを相談したところ、よりユニークな提案を下さったため、一緒に企画を詰めていったんです。それが、2013年に実施した、義理チョコに特化したキャンペーンです[3]。新宿駅に大きな広告を掲示して「義理チョコマシーン」を設置し、無料配布を実施すると、初日からテレビやSNSで話題となり「義理チョコ=ブラックサンダー」と認知度を大きく向上させることができました。

新宿駅に掲示されたブラックサンダーの義理チョコ巨大広告
新宿駅に掲示された巨大広告

【第5章】ブラックサンダーが誕生した30年前、社長は何をしていた?

― こちらの章では河合さんについてお伺いします。ブラックサンダーが誕生した1994年、河合さんは12歳でした。どのようなお子さんでしたか。

小学4年生からミニバスを始めて、中高の部活もずっとバスケをしていました。ポジションはセンターでしたね。当時、地元ではスラムダンクが流行っていましたし、私の兄がバスケをしていた影響もあって始めたんです。

― 河合さんは常に新しいことや面白いことに挑戦していらっしゃいます。そんなお人柄が培われた背景を知りたいのですが、例えば、学校のクラスではどのようなキャラクターだったのでしょうか。

ガヤ芸人的なツッコミキャラだったと記憶しています。「これは面白い」と思いついたことをタイミングを見計らってポンッと投げ込み、クラスのみんながワーッと盛り上がることが好きでした。現在やっていることも、それに近い気がします。堂々と表に立って「すごいでしょ!」とドヤるよりも、「こんなものはいかがでしょうか」と出して皆さんに楽しんでいただけるほうが嬉しくて。

学生時代からそうしてきたためか、有楽製菓の商品自体もそんなブランドになってきたように感じます。当時、バスケ以外で好きだったのは、お笑いコンビのダウンタウンで「ごっつええ感じ」も見ていましたね。あの時代のお笑い芸人さんたちがやっていた、間(ま)を読んで「ここぞ」という時にスッと面白いネタを投下するのが好きでした。

― Mattさんのメイクを社長の河合さんがチャレンジする動画も、すごかったですよね。

私は普段、社内では「私はフリー素材です」と公言していますが、現場に行ったらいきなり「Mattさんからメイクを受けてください」と言われて・・・。それに、現在の宣材写真でもブラックサンダーを繋げたストールを着用していますが、これはバレンタイン企画で社員が考えたものです。「ネット販売をするのでマネキンになってください」と言われて「はい、分かりました」と。

ちなみに、その企画では従来の「義理チョコ」から路線を変え、バレンタインでドキドキ、わくわく、そわそわした学生時代を思い出すテーマにしました。「昔は楽しかったのに、今は義理チョコでイヤな思いをしている」といったネガティブなイメージを払拭して「原点回帰して楽しみましょう」と。「チョコじゃなくてもよくない?」「チョコをあげるのがイヤなら、あげなくていいよ」に対するアンチテーゼも含んでいましたね。社内ではさまざまなアイデアが飛び交い、面白かったら積極的に企画に落とし込んだり私自身が登場したりしていますが、考え方がもう一歩な時は論理的に問いてロジカルな回答を導くようにしています。

【第6章】ユニークな商品を創出したい。「どうすれば楽しんでもらえるか」を追求

― 昨今では原材料や包装資材の価格が高騰したり、物流コストがかかったりするようになりました。また、お客様の生活や嗜好が変化したり、ブラックサンダーをよく食べていた方が子育て世代になったりする中、商品が愛され続ける秘訣は何だとお考えですか。

人によってブラックサンダーを食べている時期、食べていない時期はあるでしょうし、ずっと同じ方が食べ続けているとも考えていません。ただ、ブラックサンダーは毎年味や食感、味の感じ方を変えて「今、おいしいと感じるブラックサンダー」を目指しています。昔ブラックサンダーを食べていた方にも「変わらずおいしいね」と堪能していただけるはずです。どのメーカーさんも同じことをしていらっしゃると思いますが、「お客様にとって何がおいしいか」を世の中の味覚に合わせて変えています。今後の事業戦略としても、おいしいお菓子が作れる強みを活かし、ブラックサンダー以外の商品にも注力していきます。

― 「面白い企画や商品を作るにはどうしたらいいんだろう」と悩むビジネスパーソンの方にぜひアドバイスを下さい。

私は単純に、自分が面白いと思ったことをやっています。昔から「こんな人だったら、こんなことを喜ぶだろうな」「この場はどうやったら面白くなるかな」と妄想して形にしてきましたが、最初はなかなか難しいかもしれません。日常的に世の中の情勢を読む、空気を読む、また、相手の心を読んで「こうすると喜んでもらえるはず」とシミュレーションを繰り返すとできるようになるのではないでしょうか。

― 世の中のニーズやペインを嗅ぎ取って自社のオリジナル商品を生み出すのは至難の業ですよね。

難しいですね。私はそもそも「戦略的に」が得意ではなく「こんな状況だったらこんなことがあるほうが楽しいよね」と感覚的に捉えています。それをいかに言語化するか、他者でも再現できるようにするかに力を注ぎ、ようやく私の思考パターンを企画チームに理解してもらえるようになりました。みんなが自律的に考え、具体的な施策に取り組んでくれるおかげで斬新な企画が生まれています。私一人だったらできないと、つくづく実感しますね。

― データと感性。例えば、お客様がどの商品をどれくらい買ったか、どの季節に何を買ったかといったデータと、これは私たちらしいよね、このほうが面白いよねといった感性はどのように掛け合わせていらっしゃいますか。

やはり、最後は感性ですよね。「数字でこんな結果が出た。それはなぜか」と考えたら、その理由はいくらでも出てきます。一方、日頃から社内外の詳細な情報を進んでキャッチし、大小の経験を積んできた背景から、筋の良さそうな「こうじゃないか?」という直感も導き出すようにしているかもしれません。その理由を第三者にも分かりやすい粒度で言語化することで、私の中であらゆるデータや情報、過去の経験などが新たに繋がっていく。それが私が昔からやっている「みんな、どうすれば面白がってくれるかな」という感覚になっているように思います。

― 河合さん、お話をお聞かせいただきありがとうございました。

参考資料

  1. ブラックサンダーシリーズを含む全商品 スマイルカカオ率100%達成
  2. 30周年記念プロジェクト『30の楽雷(らくらい)』
  3. ブラックサンダーの歴史
取材対象者
有楽製菓株式会社代表取締役社長 河合辰信
取材日
2024年12月9日
初回公開日
2025年1月24日
最終更新日
2026年9月16日
企画・取材・執筆
佐野 桃木
写真提供
有楽製菓
最高顧問
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