
【第1章】「代官山T-SITE」地元住民との10回以上の対話から誕生
― 清宮さんは、新卒でカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)に入社し、FC事業や人事、カフェ事業などを含めた新規事業開発部門、代官山プロジェクトなどをご担当になります。その後、力の源ホールディングスでは3年目から代表取締役社長 兼 COOとして経営・人事や、「一風堂」の国内外店舗拡大に携わっていらっしゃいました。現在(2025年2月)、人気フードビジネスの海外展開を中心に活動していらっしゃいます。
現在、「鳥貴族」の海外展開をメインに手がけながら「焼きとりの八兵衛」「市松」といった人気焼き鳥屋との協業、さらに「挽肉と米」「金子半之助」「つじ田」など複数のブランドにも関わっています。株式会社エターナルホスピタリティグループ(旧:鳥貴族ホールディングス)では取締役・COOを務め、「金子半之助」「つじ田」「田中商店/田中そば」を抱えるオイシーズ株式会社では代表権を新社長に託しつつ、取締役として事業を推進しています。「挽肉と米」では創業メンバーかつ株主の1人として参画しながら、役員には就任せずに海外展開を手がけています。
― 清宮さんのFacebookを拝見すると「先週はL.A.」「今日は京都」など、いつも国内外を移動していらっしゃいます。
そうですね。活動は「鳥貴族」を中心とした焼き鳥関連の事業が多いですが、スーツケースに「鳥貴族」「焼きとりの八兵衛」「挽肉と米」「金子半之助」「つじ田」などのブランドを詰め込むような感覚で国内外を飛び回り、「この街にはどんな業態がフィットするか」といったご相談に複数の事例や選択肢を提示しています。

― 新卒から約15年間在籍したCCCでは、どのようなご経験が印象に残っていますか。
入社6年目で自ら志願して人事を担当させていただいた後、会社から「新規事業開発に挑戦してもらいたい」と言われてカフェ事業や新業態開発を担当し、最終的には代官山T-SITEのプロジェクトを推進したことです。代官山T-SITEは、本・映画・音楽といったカルチャーコンテンツを中心に豊かな生活を提案する「ライフスタイル提案型商業施設」として2011年に開業し、現在も東京を代表する人気スポットの一つになっています[1]。
この代官山T-SITEの企画から開業までの5年間、まさに挑戦の連続でした。代官山は多くの富裕層や著名人が住む日本有数の高級タウンですが、ここに文化拠点となる商業施設を作ることは容易ではありませんでした。当初は、一般的なTSUTAYAが建設されると誤解され、不動産価値の低下を懸念する声も多かったんです。そのため、住民説明会を10回以上実施し、質問攻めや反発に遭いながらも施設のコンセプトや価値、具体的なイメージを模型を用いてお伝えし、住民の皆さんにご納得いただきました。「事業の成功には、ステークホルダーとの対話が不可欠だ」と身をもって学ばせていただきました。
【第2章】世界を魅了する一杯。一風堂の「NY進出」でラーメンは世界食に
― 清宮さんがCCCから力の源ホールディングスに転職し、社長として最初に着手したことは何でしょうか。
当然、経営や事業全般に携わっていましたが、もともと担当していた組織改革や人材育成に注力しました。特に、会社や組織が成長し続けられるように適切な人選を行い、組織の基盤固めを意識しました。
― 人気ラーメン店「一風堂」は国内外に多店舗展開しています。2022年のデータによると、15の国と地域に計277店舗を展開していらっしゃいますが(2025年2月取材時点)、初の海外出店はどのように進めましたか[2]。
日本のラーメンが国民食から世界食になったきっかけの一つに「IPPUDOのニューヨーク進出」があったと考えています。当時、世界的なブランディング効果を見込めるニューヨークを選びましたが、海外進出で重要なのは「アイデンティティを守りながら現地に適応すること」です。ニューヨークに日本の「一風堂」をそのまま持ち込むのではなく、現地のニーズに合わせてアップデートしました。例えば、レンゲのサイズを大きくしたり、麺をすすれないお客様に向けて少し短くしたりしています。

― 日本国内でも、地域との関係構築を重視している背景をお聞かせください。例えば、お子さんたちに食べる喜びを伝えるためのワークショップを開催していらっしゃいました。
それは、力の源ホールディングス創業者の河原成美(しげみ)さんから受け継がれている「食育」や「地域貢献」の理念ですね。食のおいしさや楽しさを正しく伝えるために、日本各地の「一風堂」が1店舗あたり3〜5校の小学校を訪問し、体育館などをお借りしてラーメン作りのワークショップを実施しました。
この活動には2つの特徴があり、1つ目は「食の原体験を提供すること」です。小学校低学年は「食」への価値観が形成される大切な時期のため、「食の楽しさ」を伝えたいんです。2つ目は「未来の仲間を育てること」です。ワークショップを体験したお子さんたちには、社会人になって力の源ホールディングスに入社した方もいます。「一風堂」ではPRのために広告を打つだけではなく、足を使って地域の皆さんに出向いて「食」を伝授するカルチャーがあります。
さらに、このワークショップでは各店舗の従業員自身が企画・立案してお客様との対話を積んでいくため、店舗に対する信頼の向上にもなりました。この積み重ねが、今日の「一風堂」のブランドを築いています。
― 清宮さんは従業員の皆さんの育成にも注力していらっしゃいました。
力の源ホールディングスでは、従業員育成のために大分県の農業生産法人「くしふるの大地」で研修していました。この研修では、従業員が寝食をともにしながら農作業や食事作り、小笠原流礼法の学習、商品レシピの作成などを学びます。私が在籍していた頃は、海外店舗の従業員も参加していました。「一風堂」は国内外に幅広く展開しているため、従業員同士の繋がりが希薄になりがちでしたが、研修によって会社への帰属意識や仲間意識が強まったと考えています。
― 清宮さんからご覧になって「伸び続ける企業」と「そうでない企業」の違いは何でしょうか。
まず、「人を鼓舞する」と言うと大げさかもしれませんが、魅力的なビジョンを掲げ、それに共感する人が集まることです。言葉だけではなく「このビジョンなら相乗りしたい」と思わせる力があるかどうか、もう一つは、楽しみながら変化に適応できるかどうかです。日本企業の多くは「修正力」が弱く、トライアンドエラーを素早く回すことが苦手です。「失敗しても、修正すればいいじゃないか」と軽やかに対応できる組織が、これからの時代では生き残っていくのではないでしょうか。在京キー局ですら突然、経営危機に陥る時代です。影響力や実績を誇る大企業こそ、変化や失敗に直面しても勇敢に突き進まなければ、生き残りは難しいでしょうね。
【第3章】山本のハンバーグ創業者山本昇平氏、POOL inc.小西利行氏と仕掛けた「挽肉と米」
― 「挽肉と米」は「挽きたて、焼きたて、炊きたて」をコンセプトに2020年6月に吉祥寺にオープンした、炭火焼きハンバーグと炊きたてご飯専門店です。力の源ホールディングスを退職後、なぜこの事業に着手したのでしょうか。
当時、次に何をするかは決めておらず、「挽肉と米」を立ち上げる予定もありませんでした。「ためしに自分で会社を作ってみようかな。仕事は後から何とかなるだろう」というノリでした。そんな折に「山本のハンバーグ」創業者の山本さんと飲みに行きました。「一風堂を卒業することになった」と話すと、山本さんから「実は『山本のハンバーグ』だけでは表現しきれていない。清宮さんが力の源ホールディングスにいる時は声をかけづらかったが、一緒にやらないか」と誘っていただきました。
ただ、山本さんと私が組んでも「外食 ✕ 外食」の組み合わせでは、何の新しさもありません。これからの外食業界は「クリエイティブ」がないと成功しないし、世界にも進出できません。「どうせやるなら、クリエイティブの力を掛け合わせよう」と思い立ち、広告・ブランディングの第一人者であるPOOL inc.の小西利行さんに連絡しました。
小西さんは人気の高いコピーライターでクリエイティブディレクターであり、ブランドの立ち上げやストーリー作りに圧倒的に秀でた方です。「面白そうだから、やろう」と即答していただいて以来、紆余曲折はありましたが、トントン拍子に「外食 ✕ クリエイティブ」として「挽肉と米」を立ち上げました。

― 「挽肉と米」を展開する際、どのようなことを意識しましたか。
最初は3人とも本格的なビジネスとして捉えていませんでした。銀行からお金を借りることもなく「お店を作ってみて、失敗したら解散しよう」「そういうチャレンジ自体が面白い」という感覚でしたね。ただ、私たちが目指したのは「ハンバーグ王」と呼ばれる山本さんの世界観を具現化することです。「世界のハンバーガー文化をひっくり返す」という目標を楽しみながら、本気で挑みました。その結果、日本だけでなく、海外5ヶ国にも出店することができました。ちょうど今も10ヶ国で新規開拓を進めていて、来年以降には15〜20ヶ国でお店がオープンする見込みです(2025年2月時点)。なかなか異常なスピード感ですよね。
― 地域によっては肉を食べられないところもありますが、現地対応はしていらっしゃいますか。
実は、「一風堂」に比べると「挽肉と米」には変更幅がなく、肉や米の調達に徹底的にこだわっています。お店のデザインは進出する国や街にフィットするように常にアップデートしているものの、レイアウトや、オペレーションのコンセプト・原理原則は一切変えていません。どこまで通用するかは分かりませんが、現在は出店する国々で、私たちの想像を超える集客が続いています。「これは世界中に展開できるかもしれない」と手応えを感じています。
― 私が「挽肉と米」を知ったのはTikTokで、清宮さんの事業とは知らずに「おいしそう!」と見惚れました。TikTokで口コミが広がり、渋谷店も常に混んでいますよね。若い層をターゲットにしていたのでしょうか。
最初は30代のグルメな男性・女性を想定していました。実際にオープンしてみると、10代から30代まで幅広い世代に支持され、外国人のお客様も多いです。印象に残っているのは、10代の女性が帰り際に「お米を数年ぶりに食べました」と嬉しそうに話してくれたことです。普段はコンビニのご飯やカップラーメン、パンばかりだから、と。
― 「挽肉と米」がヒットして以来、挽肉やハンバーグを売りにしたお店が増えました。
はい。日本でも世界でも似たようなお店が出現していますが、模倣店には絶対に負けない仕組みがあるため、気にしていません。むしろ、このハンバーグ文化自体を皆さんと盛り上げていきたいです。
― 模倣店が追いつけない点を、公開できる範囲でお聞かせください。
シンプルな業態であるがゆえに、表には見えない沢山のノウハウが仕込まれています。そもそも「山本のハンバーグ」の山本さんでないと絶妙な肉の調合ができませんし、オペレーションの設計や、排気効率や作業導線を考えた独自設計などにも、特許レベルの技術があります。似たようなお店は現れますが、これらを完コピしようとしても不可能ですね。
【第4章】つじ田、金子半之助、田中商店/田中そば。複数ブランドを住み分ける出店戦略
― 清宮さんが手がけるお店はいずれも人気を博していますが、複数のブランドを同時進行している理由を教えてください。
どのブランドにも、国内外での店舗展開の可能性があるからです。「こんなチャンス、なかなかない」と積極的に取り組んでいるだけです。
― カジュアルな質問ですが、清宮さんが手がけているブランドでお好きなメニューは何ですか。
昔から焼き鳥が好きです。50代になってカレーや焼肉やラーメンは昔ほど食べられなくなりました。先月は仕事で24軒の焼き鳥屋に行きましたが、体に合うし、飽きません。そんな背景もあり、焼き鳥関連の仕事はいくら入ってきてもノンストレスです。
― 私は日本橋の「金子半之助」や恵比寿の「つじ田」が好きです。それぞれのブランドを確立するために、どのような戦略を立てていらっしゃいますか。
「金子半之助」「つじ田」「田中商店/田中そば」はそれぞれ約30店舗と規模が小さく、カニバリ(市場の食い合い)の心配はありません。出店戦略を明確に分けることで、ブランド同士が競合しないようにしているからです。
出店戦略はブランドごとに明確に住み分けています。「田中商店」は東北や名古屋などのロードサイドを中心に展開し、「つじ田」は東京の一等地や関西に進出を開始しています。「金子半之助」は一等地での展開に加え、お弁当・テイクアウト業態を新幹線の駅構内や百貨店にも広げています。つまり、それぞれのブランドが異なる立地戦略を取ることで、きれいなコントラストを作りながら出店を増やしていけるんです。

― 清宮さんは今後、フードビジネス以外の業界にも進出する可能性はありますか。
今のところ毎日が楽しいので、あまり先のことは考えていませんが、50代半ば、60代になったら今まで以上に「やりたくない仕事」はしないつもりです。つまり、自分自身が楽しくなれる仕事をします。そのほうが、周囲にもポジティブな影響を与えられるからです。そのため、引き続きフード、ドリンク、グローバル市場には関わっていく可能性は高いです。どこでどんな仕事をするかは分かりませんが、自然が好きという点から、新たにアウトドアメーカーやキャンプサイトの仕事にも関わるかもしれません。
― 清宮さんに「自社の既存事業をテコ入れしたい」といったご相談が寄せられていると思います。
有り難いことにご依頼を頂く機会は多いですが、今は国内外を飛び回っていてどうしても時間が取れないため、新規案件はあまりお受けしていません(2025年2月取材時点)。とても興味がある案件が来たら、考えるかもしれませんが(笑)。
【第5章】清宮氏が実践する、CCC創業者の教え「自分に力があると勘違いするな」
― 今後、ヒットしそうなビジネスは何だとお考えですか。
グローバル市場では、社会問題をそのまま事業にする流れがスタンダードになってきています。今はもう「拡大」を目指す時代ではなくなり「資本主義社会そのものを見直すべきでは」という議論も出ています。今後は、社会問題を解決するインフラやサービスが主流になると予想しています。「地球に優しい」「後世に残る」といった、世代を超えて価値を生み出す点では、残念ながら日本は世界から大きく遅れています。海外を回ってから日本に戻るたびに「このままではきつい」と痛感することが多いかもしれません。
― 数年前にはESG経営が話題になりましたが、「競争力が失われる」と懸念する声もあります。実際に、社会課題を事業化して売り上げを伸ばしている企業は少ない印象です。
確かに、日本は「利便性」「治安の良さ」「住みやすさ」では世界トップクラスですが、希望のある国かと問われると、少し違うかもしれませんね。

― これまで数々のフードビジネスを成功に導いてこられましたが、清宮さんが大切にしている「ビジネス哲学」は何でしょうか。
哲学というものではありませんが、「自分ひとりでは何もできない」です。さまざまな方にお願いして合意を頂き、チームを組成することは、少しだけ得意なのかもしれません。CCC時代、創業者の増田宗昭さんから「自分に力があると勘違いするな。本当に強いのは『何もできない』『弱い』と自分を認識できる人だ」と教わりました。増田さんに「仕事をする上で最も大切なことは何ですか」と尋ねた際、「人にものを頼めるプロになれるかどうかだ」と。
この言葉は今もずっと、私の根幹にあります。「自分はこれが得意だ」と思い込むと、視野が狭くなってバイアスがかかります。だからこそ「この分野ならこの人にお願いしよう」「Aさん、Bさん、Cさんが集まったら、どんなバランスになるか」と考えるようにしています。
― いつも各分野のプロフェッショナルと関係を築いていらっしゃいます。皆さんが自然と動き出すのも、信頼あってこそですね。
ありがとうございます。これもCCC時代に学んだことですが「人から好かれないと、仕事はできない」に尽きると思います。とはいえ、人に好かれようと意識しているわけではありません。「嫌われないようにすること」を心がけており、「自分の話は後回しにする」「人の話をきちんと聴く」ということは常に意識しています。
― 最後に「当社の事業には個性がなく、売り上げもそこそこ。どうすればいいんだろう」と悩んでいる方々に向けてメッセージをお願いします。
ベタな話ですが、やはり「顧客価値や顧客体験とは何か」を突き詰めることです。そのためには「お客様の感情がどこで動くか」を見極める視点が欠かせません。しかし、これからの時代は、顧客至上主義だけでは驚きも新しさも生まれません。「業界の外にいる第三者の視点」や「クリエイティブな発想」 も取り入れ、業態を再設計することが重要です。冷静な顧客視点を持ちつつ、業界の常識を超えたアイデアを組み合わせることで、新しい価値を生み出せるはずです。
― 清宮さん、お話をお聞かせいただきありがとうございました。